ルデイズ64
両肩を竦めるその仕草からは、余裕すら感じられる。
「さあ。放置せざるを得ない事情でもあったんでしょう。人に目撃されそうだったとか」
「それこそ、口封じしませんか? 目撃者を作るよりは、物言わぬ死体を山にでも捨てた方がずっと賢い」
幸一は沙紀の意見を先回りするように口を開く。
「それでも十人とか、二十人とか、大勢の人間が通りかかればその限りじゃない。沙紀さんを含めた皆さんは、その可能性を想定していますね?」
「でしょうね。で、貴方はその可能性をどう否定するの?」
幸一は、何も言わず、ただ物言わぬ死体を指差した。
「……この死体が、どうしたと言うの?」
「死体じゃありません。彼の周りを良く見て下さい。何か、気付きませんか?」
指摘に沙紀は膝を折り、死体には触らぬよう丁寧にその周りを眺める。
「……血の痕がないわね」
「そうです。おかしいでしょう? 血を吸ったなら、ここには血痕があるはず。しかも、争った形跡すら無く、服にも血がついていない。殺された後、着替えさせられたんでしょうかね?」
幸一は総括するように締め括る。
「つまり彼は、ここでは殺されなかったのではないか、とぼくは考えました。ここで疑問が生じます。ここで彼を殺していなかった犯人は、どうしてわざわざこんな人目のつく所に死体を運んだか……何かしら目的があるとは思えませんか? 例えば……マナさんの存在をこころよく思っていない人物がいたとしたら?」
「貴方も、私が犯人だと言いたいようね」
沙紀の冷たい独白に、幸一は首を振り、否定した。
「ぼくは、状況からマナさんがこの事件の犯人である可能性は皆無に近い可能性しかない、としか言っていません」
「では、このミイラは? 彼女以外で作れる者がいるとでも?」
「全身の血を抜いて、エアコンでカサカサになるまで皮膚を乾燥させればいくらでもできます……彼が一週間前にはすでに殺されていたと仮定すれば、時間的にも可能でしょう。つまり、ここにいる誰にでも、可能性という意味ならありますよ。貴女にも、ぼくにも、そして今この場にいるみんなにも」