バイズ65
群衆は幸一の論理から逃げるように眼を逸らす。
「詳しい結果は警察が調べてくれればわかると思います。とりあえず、ぼくの推論はこれで終わりです」
「そう。じゃあ、先生方もそろそろ来るでしょうから、他の学生は戻って下さい。ここは私と先生方で警察が来るまで保全します」
沙紀の一言をきっかけに、学生の群れは物言いたげな顔付きではあるが、それぞれ戻っていく。
大半の学生が教室に戻っていくと、幸一は沙紀に頭を下げた。
「ありがとうございました。貴女がみんなの疑問を代弁したような的確な質問をしてくれなければ、こんなに巧く事態を収拾する事はできなかったでしょう」
「……礼を言われるような事をした覚えはないわ。貴方が言ったように、私は、皆の疑問を代弁しただけ」
「コウイチ! やったなっ!」
ドン、とよろめく程の力でフランクが幸一の背を叩いた。
「……よくあの状況で、そこまで細かい事を観察できたものだ」
感嘆しているのか呆れているのかわからない調子でジェスも呟く。
「コウ君最高っ! シャーロック・ホームズみたいだったよっ!」
甲高い声をあげて抱きつくロザリアに、幸一は曖昧に笑いながら引き剥がし、代わって険しい面持ちでフランクの巨体を見上げた。
「フランクさん。沙紀さんに謝って下さい」
「い? オレが、コイツに?」
眼を点にする皆―沙紀すらも眼を見開いている―とは対照的に、幸一は強く頷いた。
「はい。フランクさんは何の確証も無しに沙紀さんが犯人だと、公衆の面前で決め付けました。それは、みんなが、マナさんが吸血鬼だというだけで疑ったのと、全く同じ事です。だから、謝って下さい」
「そ、それはそうだが……けどよ」
「沙紀さんと僕達が、どれだけ険悪な間柄であろうと、してはいけない事、言ってはいけない事があります。たとえ、沙紀さんがみなさんを侮辱するような言葉を幾度となく言っていても」
ダメを押す台詞にフランクは顔をしかめ、それでも沙紀と向き合った。