バブルダイズ68
自噴か、あるいは自らへの恐怖か。階段に座り込み、ガタガタ身体を震わせている幸一が、親を求め彷徨う迷子のように見えた。
マナは幸一に歩み寄り、彼の脇に腰をおろす。女性のような頼りない撫で肩に、そっと手を置いた。
「……怖くても、いいんじゃないのかな?」
幸一の顔が上げられた。
「……私だって、私を簡単に殺せるような力を持っている人が側にいたら、やっぱり怖いと思う。幸一君からすれば、私達は先日の熊のように、別次元の存在だろうし。それに……幸一君は、醜くなんかないし、弱くもないよ」
見失ったものを探すように、マナはゆっくり言葉を紡ぐ。
「さっきはね、みんなの眼が、とても怖かった。誰も私の言う事を聞いてくれなくて……私を庇っていたジェスさんや、フランクさんの眼も、周りの人達に怒ってたからか……とても怖く思えたんだよ」
充血した幸一の眼を見つめて、マナは軽く微笑む。
「でもね、幸一君の眼だけは、見てても怖くなかったんだ」
あの穏やかな眼がなければ、落ち着いて幸一に血液パックを見せる事は出来なかった。一目散にあの凶器にも似た無数の視線から逃れるべく、背を向けていただろう。
「自分の弱さを、ちゃんと知っている人じゃなきゃ、ああいう眼は出来ないよ。自分の弱さを知っているという事は、それは一つの強さなんじゃないのかな? 人は、誰でも嫌な事からは眼を逸らしたがる生き物だけど、君はそれをちゃんと直視しているじゃない?」
励ますように、軽く、その背を叩く。
「大丈夫、君なら、君が望むような立派な人になれるよ」
幸一は再び俯いた。その口から、ありがとう、と囁くような小さな声が洩れた。