バル
塀の上に張り巡らされているのは鉄条網。唯一、人の出入りがまともに出来そうな門は硬く閉ざされ、それはさながら、門の中の建物が、あらゆる繋がりを拒絶しているようにも見える。
その門の手前に、一台のベンツが止まっていた。ガラスは黒塗りで、車体の色も黒。直立不動、無表情で佇む三名の男が着るスーツの色も黒。かけているのはサングラス。
だがたった一人だけ、この場にいるのがおかしいと思われる男がいた。目が悪いのか黒ぶちの眼鏡をかけており、着ているのはスーツだが色は黒ではなく、地味な紺。他の男達が直立不動の姿勢で立っているのに対し、彼だけはごく普通に足を広げ、ゆったりとした姿勢だ。左手にはジェラルミンのアタッシュケース。顔には笑みすら浮かんでいる。
門が開く。門の先には少々腹の出た、初老の男がいた。目付きは険しく、濃緑の和服を着ている。
その姿を認めた瞬間、三人の黒スーツは一斉に頭を下げた。
「おやっさん、おつとめ、ご苦労様っした!」
「おう……で、こちらが」
「森野です。以後、お見知りおきを、大沢さん」
眼鏡のつるを押し上げ、森野は名乗った。大沢は大きく頷き、歩き出す。
「で、森野さんとやら。俺の力を借りたいらしいな」
「そうです。是非とも、大沢さんのお力をお借りしたいのです。……ご助力、願えますでしょうか? もちろん、相応の報酬はお支払い致します」
開けられたアタッシュケースには、札束の山。ざっと見積もっても、億単位。
黒スーツの一人が恭しく車のドアを開ける。
「ああ。あんたにはここから出して貰った借りがあるしな。何より、このまま引き下がったら組のメンツが丸潰れだ……!」
忌々しげに顔を歪めながら車に乗り込む大沢に、森野は場違いな笑みを浮かべる。
「僭越ながら、私、すでに一つ手を打たせて頂きました。まあ、成果が出るまでは、もうしばらく時間を頂きたいのですが」
森野が眼鏡の奥に隠した眼には、尋常ならざるものが浮かんでいた。