デイ
緑豊かな景色が高速で流れていく。山の麓を進む電車からは、大志田の街を見下ろせる。耳障りな音をたてながら電車は進む。
「クチン! ……あー、昨日調子に乗ったのがいけなかったかな」
「……八時までバイダーごっこやってれば、それは風邪の一つもぶり返すでしょう」
むー、と額にシワを作るマナに対し、幸一は、頭痛を抑え込むように頭を抱える。
「むー……いいじゃない、子ども達も喜んでしたんだし」
「……子どもより、みんながノリノリだったように思えるんですけど」
白い視線を向ける幸一に、マナは確とした揺るぎない眼差しで彼を見据えた。
「幸一君、教師になるなら、童心に帰るのは、大切な事だよ?」
「……それは否定しませんけど」
ズイと美貌を迫らせられ、気圧された幸一は、何か違うと思うんだけどと思いつつ、バイダーの話題は引っ込める。
大志田大学前、と車掌のアナウンスが響くと電車内の約半数の人間が動き出す。
もしこれで、朝八時の電車に乗れば、混雑はこの比ではないだろう。一本早い電車に乗る理由は明快だ。吸血鬼であるマナが可能な限り人目を避けているからだ。幸一が乗る理由は、ただ単に早起きが習慣化しているからだが。
電車をおり、駅から出ると講義棟まで五百メートルはあろうスロープをのぼりはじめる。五月だというのに三十度を超える猛暑にもかかわらず、紫外線対策で道行く人々は皆長袖である。
周りからは、チラチラと異物を排除するような眼光が注がれている。
「……ねえ、幸一君。君、サークルに入った事で、他の人から嫌がらせされたり、煙たがられたり、何か支障はなかった?」
「特にないですよ。同じ学科の人達も『大変だな、お前も』とは言われましたけど」
サラリと返ってきた答えにマナはほっと息をついた。